ヤシャ・モンクの『民主主義を救え!』を読んで、他にモンクの本はないかと思って見つけたのが『強権に「いいね!」を押す若者たち』です。モンクの本っていうよりも、テレビでコメンテーターとしてみかける玉川透さんの本に、モンクの論文も入ってるって感じですね。
ちょっと想像してたのと違っていたので拍子抜けしたのですが、読んでみると意外と面白く考えさせられる本でした。
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ベースにあるのはモンクが『民主主義を救え!』でも紹介していた「世界的に若者が権威主義的体制に好意をもっている」「アメリカやEUなどの民主主義国の若者に軍政に対する支持が増えている」という調査結果です。
EUでもアメリカでも、移民の流入といった人口構成の変化などがあって、それまでの多数派は自分たちが政治的・経済的に没落するのではないかという不安を持っている。その中で、既存の民主主義システムではこうした「不安」に対してスピーディーな解決を提示してくれないという不満を感じて、移民の排斥などを訴えるポピュリストが登場して支持をあつめちゃうっていう構造なわけです。
日本の若者の「野党嫌い」にみる同調圧力
しかし、日本の若者が軍政や独裁を支持している理由ってのがいまいちはっきりしない。「軍政に良いところもある。人権侵害とか悪いところはあるかもしれないけど、ライトな軍政ならいいんじゃないか」みたいな、なんとものんびりした議論になっている。さらに突っ込んで話を聞いていくと、どうやら日本の若者に共通するのは「野党ぎらい」という側面があるらしい。
国会での論戦などについても「そもそも、総理大臣に反対意見を言うのは、どうなのか」「相手の悪いところばかりを探り出し、おとしめる」と、論戦すること自体にネガティブなイメージを持っている。
さらには、選挙に投票に行った話では「開票結果を見て、自分が多数派だったということがわかったら、なんだか安心しました」というような感想が出てくる。選挙が、自分が支持する政策を掲げる候補が当選するかどうかではなく、ちゃんと多数派という「正解」を選べるかというテストになってしまっている。
なんというか、同調圧力への順応というか、多数派として「空気を読」んで振る舞うことの徹底ぶりを見れば、すでに若者の政治的指向としては独裁への順応が内面化されつつあるのではないか、とも思えてくるわけです。
権威主義体制諸国の若者は権威主義に批判的らしい
「今どきの若者はー」という老害ワードが口をついて出てきそうになるのですが、モンクの研究を見てみると、実は単に若者の問題ということでもない。権威主義体制のもとにある中国やインド、サハラ砂漠以南のアフリカといった地域では、軍政や権威主義体制に対して若者が親近感を持つどころか、真逆の結果が出ているとのことである。
つまり、民主主義が定着した世界の中で問題となっているポピュリズムや権威主義体制を支持する運動の興隆というのは、民主主義のギリギリの崖っぷちなんだろう、と。のんきに「ライトな軍政」みたいなことを想像できているだけ、まだ民主主義が機能しているのであって、実際に権威主義体制に転落したときには当然にも若者の意識も変わるんだろうな、と思えるわけです。
ただ、やっかいなのは、民主主義とちがって権威主義体制ってのは一度確立してしまうと変えるのには戦争に負けるくらいの規模の話がないと難しいってのは日本やドイツの歴史が教えているんで、なるべくそうならないよう、モンクが言うように「リベラル・デモクラシーを救うために必要なことをするまで」なのだろう。
モンクの『民主主義を救え!』は現代の日本でこそ読まれるべき本だと思いますので、ぜひ一読してみてください。